専用使用権が認められるケース
各戸に接して設置されているバルコニーは専有部分ではなく共用部分に属します。しかし、実際には各住戸に付属し、利用するのはその住戸の住人に限られます。
そのため、一般の共用部分とは区別して、「専用使用部分」と呼ばれます。また、それを利用する権利を「専用使用権」と言います。同じように1階の住戸に面している専用庭も専用使用部分です。
しかし、専用使用部分は専有部分とは違い、利用には制限があると考えなければなりません。たとえばバルコニーであれば、倉庫、温室、サンルームなどを設置したり、居室に改造することや、花壇をつくってしまうことは許されません。
その理由は次の通りです。
- 非常時にはバルコニーが避難路としての役割を持つ
- 建築物などの重量によって、バルコニーに破損が起こったり、落下する危険が考えられる
- バルコニー部分の改築によって建物全体の美観が損なわれる可能性がある
したがって可動式の物置をおくことも、やはり上記の1、2、3に該当すると考えられますので、認められないと考えるべきでしょう。
ただし鉢植えに関しては、一般的に認められているケースが多いようです。ただし大型の観葉植物では、同じく1、2に該当する可能性がありますので、小型の植木鉢に限られるでしょう。その際の基準としては、手すりの高さ(一般には1.1メートル)を超えないことで、3に該当しないことが考えられます。使用細則などで詳細に定めておくのがいいでしょう。
バルコニーや専用庭の他にも、各住戸の入口ドア付近に簡単な囲いが設置され、専用使用権が設定されているケースがあります。靴箱などを置くことができますが、専有部分ではありません。もちろん、この場合は必ず管理規約に規定があります。
バルコニーに人口芝を敷いてもいいか
人口芝を敷くのであれば、避難の妨げにはならないし、重量も軽く、高い位置から覗かれない限り外側からも目に付きません。撤去も簡単にできます。したがって、避難ハッチの入口をふさいだりしない限り問題ないと考えていいでしょう。
装飾タイルを床に接着する場合は、避難に影響がないとしても、原則的に、容易に除去ができない場合は認められません。
いずれにしても、管理規約や使用細則などで決めておく必要があると思われます。また、仮に認められたとしても、管理組合により、バルコニー全体の防水工事などが行われる場合には、敷設した区分所有者が自らの負担により剥がす必要が出てきます。
専用庭にも利用制限がある
同じく専用庭についても、利用に制限があると考えるべきです。たとえば次のような項目が挙げられます。
- 家屋、倉庫、物置、サンルーム、ビニールハウス、縁側、遊戯施設その他工作物(地下または高架の工作物を含む)の設置または築造
- 専用の配管、配線、アマチュア無線アンテナ、音響機器および照明機器等の設置
- コンクリートの打設および多量の土砂の搬入または搬出
- 他の専有部分の眺望、日照、通風に影響を及ぼすおそれのある樹木その他の植物の栽培等
- 配線、配管、フェンスその他の共用部分などの保存に影響を及ぼすおそれのある掘削または使用
- その他専用庭の通常の用途以外の使用
さらに、これらの禁止行為を行った場合には、その区分所有者(または賃借人)に対して原状回復の責任を持たせることも、使用細則において定めておくのがいいでしょう。
なお、バルコニーに簡単な建築物を設置したにもかかわらず、管理組合が14年もの長年に渡って放置してきたことで、強制的な撤去が認められなかった判例もあります。不法使用を見つけたならば、管理組合は早い段階で警告を出すことが必要でしょう。
アンテナを個人で設置できるのか
BS放送やCS放送を受信するには、専用のパラボラアンテナを設置する必要がありますが、原則として個人でバルコニーなどに設置することはできません。バルコニーは共用部分であることに加えて、全体の美観を損ね、マンション全体の資産価値を下げることにもなるからです。どうしたも設置したければ、管理組合に許可をもらう必要があります。
最も望ましいのは、共同受信設備を設置することですが、総会での決議が必要になります。そこで、事前に全戸を対象としたアンケートを実施するなどして、どれだけの需要があるのかを調査する必要があります。
また、新たに共同受信設備を設置する場合には、すでに個人的にパラボラアンテナを設置している人に撤去してもらう必要が出てきます。個人設置を認めるとしたら、「将来、共同受信施設を設置することになった際には協力します。自己の責任において、個人負担でアンテナをすみやかに撤去します」という念書を取り付けておくのがいいでしょう。
ただしCATV(ケーブルテレビ)は、分譲マンションに住む個人が引くことは難しいようです。したがって、CATVを引く場合には、管理組合が主体になり、マンション全体で引くかどうかを話し合うことになるでしょう。
電気容量の増設は可能か
共用部分の変更には、この他に電気容量の増設などがあります。このような場合も、あらかじめ住民アンケートを実施して、実際にどの程度の需要があるかを調べた上で、総会の議決を経なくてはなりません。
共用部分の変更については、その形状または効用の著しい変更を伴わないものであれば、普通決議で足りることになっています。したがって、電気容量の増設の場合は、区分所有者総数および議決権総数の過半数の賛成があればいいことになります。
複合用途型マンションでは共用部分のとらえ方が違う
住戸と店舗などの商業施設が混在している複合用途型マンションでは、共用部分の考え方が住戸だけのマンションの場合とは異なります。
住戸のみのマンションでは、たとえば1階の住戸の区分所有者がエレベーターを使用しないとしても、上階の区分所有者と同じ管理費や修繕積立金を支払う義務があります。それが複合用途型マンションで、店舗部分専用のエレベーターが設置されている場合には、店舗部分の区分所有者だけに関係する共用部分となるなど、事情が違ってきます。そこで複合用途型標準管理規約では、共用部分を3つの部分に分けています。
- 全体共用部分・・・・・区分所有者全員に関わる共用部分
- 住宅一部共用部分・・・・・住戸部分の区分所有者だけに関わる共用部分
- 店舗一部共用部分・・・・・店舗部分の区分所有者だけに関わる共用部分
さらに管理費、修繕費についても、次のように3種類に分けて考えます。
- 全体管理費・全体特別修繕費
- 住宅一部管理費・住宅一部別修繕費
- 店舗管理費・店舗一部特別修繕費
住戸の区分所有者は、1、2を、店舗の区分所有者は1、3をそれぞれ管理組合に対して支払うことになります。この場合は、管理費の算出が複雑になるので、財務管理は慎重に行うように気をつけなければなりません。
ただし共用部分が一部のものか、全体のものであるのか、必ずしも明確に分けられるものではありません。また、明確に一部の共用部分であっても、区分所有者全体の利害に関わってくる場合もあるでしょう。国土交通省の作成した標準管理規約にも、「複合用途型標準管理規約」があるので、参考にするといいでしょう。